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福岡高等裁判所 昭和61年(行コ)22号 判決 1990年2月27日

熊本市壺川二丁目一番三九号

控訴人

山口ミツ

熊本市水前寺五丁目七番八号

控訴人

山口博文

熊本市出町五番二八号

控訴人

山口節二

熊本市壺川二丁目一番三九号

控訴人

山口洋三

右四名訴訟代理人弁護士

佐藤義行

大塚正民

熊本市二の丸一番四号

被控訴人

熊本西税務署長

田上弘

右指定代理人

福田孝昭

溝口透

杉山雍治

岩崎光憲

坂井正生

福元譲

右当事者間の更正処分等取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  本件各控訴をいずれも棄却する。

但し、原判決主文一項に「更正処分中納付すべき金額」とあるのを「更正処分中納付すべき税額」と更正する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人が、控訴人らに対し昭和五一年六月三日付けでした控訴人らの被相続人山口亀鶴の昭和四九年分所得税の更正処分を取り消す。

3  被控訴人が、控訴人山口節二に対し昭和五一年六月三日付けでした昭和四九年分所得税の更正処分を取り消す。

4  被控訴人が、控訴人山口ミツに対し同控訴人の昭和五四年六月一二日付け昭和五〇年分所得税の更正の請求に対し昭和五四年一〇月三〇日付けでした更正通知処分のうち一部認容した部分を除くその余の処分を取り消す。

5  被控訴人が、控訴人山口節二に対し同控訴人の昭和五四年六月一二日付け昭和五〇年分所得税の更正の請求に対し昭和五四年一一月一二日付けでした更正通知処分のうち一部認容した部分を除くその余の処分を取り消す。

6  被控訴人が、控訴人山口洋三に対し同控訴人の昭和五四年六月一二日付け昭和五〇年分所得税の更正の請求に対し昭和五四年一〇月三〇日付けでした更正通知処分のうち一部認容した部分を除くその余の処分を取り消す。

7  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり付加し訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の訂正

1  原判決四枚目表末行の「所得を認定した」を「譲渡所得を認定した」と改める。

2  原判決八枚目表二行目から三行目にかけての「収入金額五八四五万、」を「収入金額五八四五万円、」と改める。

3  原判決一一枚目裏一二行目から一三行目にかけての「法六四条二項の適用の余地ない。」を「法六四条二項の適用の余地はない。」と改める。

二  控訴人らの主張

所得税の基本原則について最高裁判所判決(昭和四九年三月八日第二小法廷判決・民集二八巻二号一八六頁。以下この判決を「最高裁判決」という。)は、次のとおり判示している。

「もともと、所得税は経済的な利得を対象とするものであるから、究極的には実現された収支によつてもたらされる所得について課税するのが基本原則であり、ただ、その課税に当たつて常に現実収入のときまで課税できないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期しがたいので、徴税政策上の技術的見地から、収入すべき権利の確定したときをとらえて課税することとしたものであり、その意味において、権利確定主義なるものは、その権利について後に現実の支払があることを前提として、所得の帰属年度を決定するための基準であるにすぎない。換言すれば、権利確定主義のもとにおいて金銭債権の確定的発生の時期を基準として所得税を賦課徴収するのは、実質的には、いわば未必所得に対する租税の前納的性格を有するものであるから、その後において右の課税対象とされた債権が貸倒れによつて回収不能となるがごとき事態を生じた場合には、先の課税はその前提を失い、結果的に所得なきところに課税したものとして、当然にこれに対するなんらかの是正が要求されるものというべく、それは、所得税の賦課徴収につき権利確定主義をとることの反面としての要請であるといわなければならない。

もとより、いつたん適法、有効に成立した課税処分が、後発的な貸倒れにより、遡つて当然に違法、無効となるものではないが、その貸倒れによつて前記の意味の課税の前提が失われるに至つたにもかかわらず、なお、課税庁が右課税処分に基づいて徴収権を行使し、あるいは、既に徴収した税額をそのまま保有することができるとすることは、所得税の本質に反するばかりでなく、事業所得を構成する債権の貸倒れの場合とその他の債権の貸倒れの場合との間にいわれなき救済措置の不均衡をもたらすものというべきであつて、法がかかる結果を是認しているものとはとうてい解されないのである。」

本件において、被控訴人は、控訴人らに対し、控訴人らの株式会社太洋(以下「太洋」という。)に対する金銭債権につき「後に現実の支払があることを前提として」課税し、これにより控訴人らは「現実的には、いわば未必所得に対する租税前納」を強いられたわけである。

ところが、その後控訴人らの太洋に対する右金銭債権は、昭和五四年四月一八日の太洋に対する会社更生法に基づく更生計画認可決定により貸倒れとなり、控訴人らにおいて右債権につき現実の支払が受けられないことが客観的に確定したのであるから、先の課税はその前提を失い、「結果的に所得なきところに課税したものとして、当然にこれに対するなんらかの是正が要求される」筈である。したがつて、前記最高裁判決は正に本件に適用されるべきである。

また、前記金銭債権の貸倒れは、法の関知するところでないとの認定をするのであれば、現行法制下では明文の救済規定がないことになるので、前記最高裁判決のいうように「事業所得を構成する債権の貸倒れの場合とその他の債権の貸倒れの場合との間にいわれなき救済措置(事後措置)の不均衡をもたらすものというべきであつて、法はかかる結果を是認しているものとはとうてい解されない」から、それが資産の損失であれ、金銭債権の消滅であれ、譲渡代金の回収不能であれ、はたまた保証債務の履行に伴う求償金の回収不能であれ、一度生じた所得の後発的消滅ないしは減少によつて担税力が消滅ないしは減少したときは、所得区分を問うことなく課税上の是正措置がとられなければならなくなるから、右判決は本件に適用されるべきである。

以上要するに、前記最高裁判決による限り、本件の場合、「結果的に所得なきところに課税したものとして、当然にこれに対するなんらかの是正が要求される」筈である。これを実定税法上の条文にあてはめようとすれば、後記のとおり、1現行所得税法(以下「法」ともいう。)六四条二項に定める保証債務を履行するため資産の譲渡があつた場合で、求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつた場合、2同法条一項に定める太洋に資産を譲渡した場合で、代金債権が貸倒れとなつた場合、3法一五二条を介して前記最高裁判決が宣明した所得税の基本原則のいずれかが適用されるべきである。

1  法六四条二項の適用について

山口亀鶴(昭和四九年一二月三日死亡、以下「亀鶴」という。)は、太洋の代表取締役であつた。亀鶴は、昭和四八年一一月二九日発生した大火による火災事故によつて生じた太洋の被災者らに対する補償金支払債務を含む太洋の全債務について個人保証をしていた。右大火により太洋が危機に瀕したため、亀鶴及びその相続人である控訴人らは、右保証債務を履行するため、原判決添付物件目録(一)、(二)の各不動産(以下「(一)の物件」、「(二)の物件」という。)及び同判決添付別表六(以下「別表六」という。)記載の番号1ないし6の各不動産(以下番号1の不動産については「1の物件」といい、番号2ないし6の各不動産についても同様の記載をする。)等の個人資産の殆どすべてを太洋に提供し、これらの処分方法及び代金の受領等の権限もすべて太洋に委ねていた。

ところで、本件各課税の対象とされる前記各物件についての所有権移転の形式的経過をみると、

(一) (二)の物件は、所有者である控訴人山口節二(以下「控訴人節二」という。)によつて昭和四九年四月一二日大進株式会社に代金二億五三〇〇万円で売却され、

(二) (一)の物件は、所有者である亀鶴によつて昭和四九年六月二九日田上正昭に代金五八四五万円で売却され、

(三) 4の物件は、所有者である控訴人らによつて昭和五〇年一二月一五日太洋に代金二九四〇万円で売却され、更に昭和五一年一〇月二〇日太洋から美つ山ビルに代金七九三六万円で転売され、

(四) 5の物件は、所有者である控訴人らによつて昭和五〇年一二月一五日太洋に代金六七〇万円で売却され、更にこのうち三七〇万円分は昭和五一年八月二日太洋から春野涼記に八八〇万円で転売され、

(五) 6の物件は、所有者である控訴人山口洋三(以下「控訴人洋三」という。)によつて昭和五〇年一二月一五日太洋に代金一億一二一〇万円で売却され、更に昭和五一年八月二日太洋から熊本セントラル開発に代金二億五四二一万四〇〇〇円で転売され、

(六) 1の物件は、所有者である控訴人らによつて昭和五〇年一二月一九日石原信男に代金二五〇〇万円で売却され、

(七) 2の物件は、所有者である控訴人らによつて昭和五〇年一二月二二日住友信託銀行に代金五七五〇万円で売却され、

(八) 3の物件は、所有者である控訴人らによつて昭和五〇年一二月二六日大洋企業株式会社に代金一三八〇万円で売却され

たことになついている。

しかし、亀鶴及びその相続人である控訴人らが(一)(二)の各物件及び1ないし6の各物件を譲渡する決定的な動機及びその目的は、前記保証債務を履行することにあつたもので、亀鶴や控訴人らの太洋に対する借入金等の債務を弁済することを目的として譲渡したものでは断じてなく、亀鶴及びその相続人である控訴人らは右各物件の譲渡について買主の選択、売買条件の決定、代金の授受、代金の管理及びその処分に全く関与しておらず、これらはすべて太洋がこれに当たつていることなどの経緯からして、右(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の譲渡は4ないし6の各物件の譲渡と形式的な差異はあるにしても、実質課税の原則ないし実質主義の観点からこれをみると、右各物件の譲渡はすべて実質的に同一であつて法六四条二項所定の「保証債務を履行するため資産の譲渡があつた場合」に該当するものである。このことは、太洋の熊本国税局長宛及び国税庁長官宛の各嘆願書の記載によつても明らかであり、亀鶴及び控訴人らの全く関与しないところで作成された太洋の一方的な会計帳簿等は控訴人らに対する課税のための資料とはならないというべきである。なお控訴人らは、昭和五〇年分所得税確定申告において法六四条二項の適用を前提とした所得計算を行わなかつたが、これは国税局の勧めによるものであつた。

そして、昭和五四年四月一八日太洋に対する会社更生法に基づく更生計画認可決定がなされた結果、亀鶴及び控訴人らの太洋に対する保証債務の履行に伴う求償権を行使することができなくなつたのであるから、法六四条二項が適用ないし準用されるべきである。

2  法六四条一項の適用について

(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の譲渡における前記1記載の実質的経緯からすると、右各物件の譲渡は、前記保証債務を履行するため、亀鶴及びその相続人である控訴人らから太洋に対して時価で売り渡されたものとみるべきである。そして、前記1の(一)、(二)及び(六)ないし(八)の各売買は実質的には太洋がこれを転売したものとみるべきであるから、前記の時価というのは右転売代金と同額ということになる。

そうすると、亀鶴及び控訴人らの太洋に対する右各物件に関する債権は、売買代金債権であると同時に保証債務の履行に伴う求償債権でもあつたわけである。

ところが、前記のとおり昭和五四年四月一八日太洋に対する会社更生法に基づく更生計画認可決定がなされた結果、控訴人らの太洋に対する前記債権は回収不能となつたのであるから、法六四条一項が適用ないし準用されるべきである。

3  法一五二条を介して前記最高裁判決が宣明した所得税の基本原則の適用について

(一) 本件訴訟の第一は、(一)(二)の各物件に関する所得税について昭和五一年六月三日付けでした昭和四九年分所得税の更正処分の取消しを求めるものである。そして、その根拠の一つは、前記嘆願書の趣旨に従つて所得税確定申告書のとおり認容してもらいたいというものであり、その二つは、昭和五四年四月一八日太洋に対する会社更生法に基づく更生計画認可決定により太洋に対する債権が回収不能となつたので、法一五二条に基づき昭和五四年六月一二日付けで更正の請求書を提出するとともに、当時国税不服審判所に係属中であつたので更正処分取消審査請求において昭和五四年一二月八日付で審査請求理由の追加をし、右後発的事由により債権の回収が不能となつたことによる取消しを求めるものである。

本件訴訟の第二は、1ないし6の各物件に関する所得税についての昭和五四年一〇月三〇日付け及び同年一一月一二日付けでした昭和五〇年分所得税の更正通知処分のうち一部認容した部分を除くその余の処分の取消しを求めるものである。ところで、右所得税の確定申告書提出後、前記の更生計画認可決定により太洋に対する債権が回収不能となつたので、法一五二条に基づき昭和五四年六月一二日付けで法六四条二条の適用を前提とした更生の請求書を提出したところ、これを否定して前記更正通知処分がなされたのである。

(二) 本件に法六四条一項又は二項の適用がないとすれば、(1)被控訴人は、控訴人らに対し、「後に現実の支払があることを前提として」昭和四九年分及び昭和五〇年分の各所得税を課税し、控訴人らは「実質的には、いわば未必所得に対する租税の前納」を強いられたこと、(2)ところが、太洋に対する前記更生計画認可決定により太洋に対する債権が回収不能となり、控訴人らにとつて太洋からの「現実の支払」がないことが確定したのであるから、「先の課税はその前提を失い、結果的に所得なきところに課税したもの」となつたこと、(3)控訴人らの太洋に対する右の債権なるものは、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の売却によつて生じたものであることは明らかである。

右の事実に最高裁判決が宣明した所得税の基本原則を適用すれば、本件は「結果的に所得なきところに課税したものとして、当然になんらかの是正が要求される」筈である。けだし、本件の場合、同判決が判示するように「法がかかる結果を是認しているものとはとうてい解されない」からである。

したがつて、本件には法一五二条を介して前記最高裁判決の宣明した所得税の基本原則が適用され、本件各更正処分及び本件各更正通知処分はいずれも取り消されるべきである。

三  控訴人らの主張に対する被控訴人の反論

1  控訴人らの引用する最高裁判決について

(一) 右最高裁判決は、昭和三七年法律第四四号による改正前の旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)のもとにおいて、雑所得として課税の対象とされた金銭債権が後日貸倒れになつて回収不能となつた場合、当該貸倒れの発生とその数額が客観的に明白で、課税庁に格別の認定判断権を留保する合理的な必要性が認められない場合には、国又は課税庁は、正義公平の原則に照らし、当該納税者に対して課税処分の効力を主張し得ないとしたものであつて、後発的貸倒れに対する救済規定のない旧所得税法のもとにおける特殊な場合の判断を示したものである。ところが、改正後の現行所得税法は、一五二条に「更正の請求の特例」を、また、国税通則法は、二三条に「更正の請求」をそれぞれ規定して後発的貸倒れに対する救済規定を法定しているのであるから、右判決は適用の余地のない過去のものである。

また、右判決は、権利確定主義のもとにおいて、雑所得の対象となる金銭債権の確定的発生の時期(すなわち、課税対象としての債権が有効に成立した事実の存在。)を基準として課税し、後日右課税の対象とされた債権が貸倒れにより回収不能となつて(すなわち、所得の発生源たる債権が所得を実現しないことに帰する事実の存在。)、右課税がその前提を失つた場合に関するものであつて、要するに、最終的に所得の実現がなかつたからこそ「究極的には実現された収支によつてもたらされる所得について課税する」という所得税法の基本原理に照らし是正されるべきであるとしたものである。したがつて、本件のように、控訴人らがたとえ太洋を介してとはいえ、本件譲渡にかかる売買代金を一旦取得(すなわち所得実現)したうえで、それを仮に保証債務の履行としてであれ、太洋に支弁した場合、すなわち、一旦実現した所得を費消若しくは処分した場合にまでその是正を求めたものではない。控訴人らは、右判決にいう所得税の基本原則をいたずらに拡大解釈しようとするものにほかならない。

(二) 控訴人らは、最高裁判決の「事業所得を構成する債権の貸倒れの場合とその他の債権の貸倒れの場合との間にいわれなき救済措置の不均衡をもたらすものというべきであつて、法がかかる結果を是認しているものとはとうてい解されない」との判示から、それが資産の損失であれ、金銭債権の消滅であれ、譲渡代金の回収不能であれ、はたまた保証債務の履行に伴う求償金の回収不能であれ、一度生じた所得の後発的消滅ないしは減少によつて担税力が消滅ないしは減少したときは、所得の区分を問うことなく課税上の是正措置がとられねばならない旨主張するけれども、最高裁判決は、前記のとおり、後発的貸倒れに対する救済措置が法定された現行所得税法のもとにおいては適用の余地がないばかりでなく、同判決は、課税の対象とされた未実現の債権が後発的貸倒れによつて消滅した場合に、その課税の前提が失われたとして所得区分を問うことなく課税上是正すべきであるとするものであり、本件のように、一旦実現した所得の費消若しくは処分による消滅、又は課税の対象とされていない債権(例えば、貸付金債権あるいは保証債務の履行に伴う求償債権)の回収不能による消滅についてまで課税上の是正措置を求めたものではないのである。したがつて、右主張は失当である。

2  法六四条二項の主張について

法六四条二項は、保証債務を履行するため資産の譲渡があつた場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつたときは、その行使することができないこととなつた金額に対応する譲渡所得の金額は、なかつたものとみなす旨の規定である。

(一) そこで、法六四条二項を適用するには、まず当該資産の譲渡をしようとする者が他人の債務の保証人となつていることが必要であるところ、本件において、亀鶴が太洋の遺族に対する補償金支払債務を含む太洋の全債務について個人保証をした事実はない。

殊に、右遺族補償金は、太洋の債務であつたばかりか、亀鶴及びその相続人である控訴人らにとつても固有の債務であつたので、同条項にいう保証債務ではなく、むしろ控訴人らは亀鶴の右固有の債務を相続するとともに、相続人ら固有の債務として遺族らとの和解に応じたものであり、だからこそ遺族らが亀鶴及びその相続人である控訴人らに対し保証債務の履行を求めた事実がないのは勿論のこと、控訴人らが遺族に対して太洋の前記債務につき保証を約した事実もない。

(二) また、法六四条二項を適用するには、当該資産の譲渡しようとする者が、保証債務の履行のために資産の譲渡を行つたことが必要であるところ、本件譲渡は次のとおり、太洋再建のため、いわば増資ないし出資としてなされたものにすぎず、特定の保証債務の履行のためになされたものでないことは明らかである。

(1) 亀鶴及びその相続人である控訴人らは、太洋が同族会社としての性格上、火災のために倒産すれば従業員の失業、遺族補償金の支払不能などの事態を招来して強い社会的非難を浴びるため、それを免れるには太洋の再建しかないと考え、積極的に再建計画を推進し、ようやく昭和五〇年一一月一六日営業再開にこぎつけ、翌昭和五一年三月二六日には被災者らとの和解も成立したものの、同年一〇月二七日には会社更生手続開始の申立てがなされて経営が完全に行き詰つたものであり、この間太洋が多額の運転資金等を必要としたことはいうまでもない。

つまり、亀鶴及びその相続人である控訴人らは、太洋の再建推進策の一環として本件(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の譲渡をなし、これによつて取得した処分代金を太洋に対し必要な再建資金として貸し付けたにすぎず、保証債務の履行のために本件譲渡がなされたものではないのである。

(2) 右のことは、大洋の経理処理からも完全に裏付けられる(なお、火災による被災者らに対する補償金等の支払については、当該各事業年度において、太洋自身が支出し、いずれもこれを特別損失として計上している。)。

(イ) まず、(一)の物件の売却代金五八四五万円のうち五八〇〇万円については、亀鶴の太洋に対する仮払金の戻入れ、すなわち亀鶴の太洋からの借入金の返済に充当している。

(ロ) 次に、(二)の物件の売却代金二億五三〇〇万円のうち二億五〇〇〇万円については、太洋が控訴人節二からの仮受金(その実質は借入金である。)として計上したうえ、そのうち四八五九万三七八八円は昭和四九年八月一五日同控訴人に対する仮払金及び未収金債権に充当して相殺をなし、残金二億〇一四〇万六二一二円についてもその後同様の方法で充当して相殺がなされている。

(ハ) 1ないし3の各物件の売却代金については、太洋が控訴人らから仮受金として受け入れ、太洋に売却した4ないし6の各物件の売却代金については、太洋から控訴人らに対する未払金として計上したうえ、太洋の資金需要を確保するために、まず、太洋が控訴人らに対して有していた仮払金債権等に充当し、残金については未払金ないしは仮受金債務(実質は借入金)として会計処理している。

そして、遺族らとの和解条項に基づく補償金の支払については、亀鶴の相続人である控訴人らとの間で負担割合を取り決め、太洋が支払つた補償金のうち控訴人らの負担部分については逐次右債務と相殺処理をしているのである。

(3) 更に、控訴人らは、太洋に対する会社更生申立事件において、会社更生法一二五条に基づき太洋に対する更生債権の届出をなし、更生債権認否表記載の無異議議決権額のとおり一般更生債権として承認されているが、この更生債権の内容を見ても、本件譲渡に基づいて控訴人らが太洋に対して有することとなつた債権(太洋の経理では未払金もしくは仮受金債務)を基礎とし、この額から太洋が被災者らに支払つた補償金のうち控訴人らが負担すべき金額を差し引いた残額となつているのである。

右のことからしても、本件資産の譲渡が保証債務の履行のためになされたものでないことは明らかである。

ちなみに、亀鶴が、控訴人ら主張のように熊本国税局長及び国税庁長官宛に提出した嘆願書によれば、「企業の代表者又は役員に個人資産の提供が法律的に強制されている訳ではありませんが」という記載となつているのであるから、本件譲渡が保証債務の履行のためになされたものでないことを控訴人らも自認していたものというべきである。

(4) 控訴人らは、亀鶴及びその相続人である控訴人らが保証債務を履行するため、個人資産の殆どすべてを太洋に提供し、その処分方法及び代金の受領、それによる個人保証の債務の弁済の権限を太洋に委ねた旨主張する。しかしながら、控訴人らが処分を留保した不動産も存在するばかりでなく、逆に太洋所有にかかる不動産を控訴人らの一部の者が買い受けたうえ、その支払を太洋の当該控訴人らに対する仮受金債権の支払に充当する方法により決済した事例も存在するのである。また、右資産の処分と代金の受領について太洋の職員が現実に行動したとはいうものの、それは亀鶴ら山口家の意思に基づいたものであつて、職員は亀鶴らの使者として行動しているのに対し、その代金の太洋への受入れは、前記のように仮払金債権、未収金債権の各弁済及び仮受金債務として処理され、その後は、太洋において、亀鶴らに対する仮受金債務が残るとはいえ、増加した資産の運用は太洋独自の立場でなし得るのであつて、両者は明確に区別し得るものである。

(5) 仮に、本件譲渡代金が保証債務の履行に充てられたものであるとしても、本件においては、求償権の不行使を前提とした(せいぜい太洋が将来的に再建を果たし収益に余裕が生じれば償還を受け得るという程度の期待が存する。)保証債務の履行にすぎず、実質的には免責的債務の引受けかあるいは贈与としてなされたものであるから、法六四条二項を適用する余地はない。

(6) なお、保証債務履行のための資産譲渡の場合における課税の特例の適用を受けるためには、確定申告書にその適用を受ける旨及びその明細を記載することを要する(法六四条三項)が、控訴人らは1ないし3の各物件についての確定申告において右の意思表示をしていないのである。

3  法六四条一項の主張について

控訴人らは、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の買主は太洋である旨主張するが、右各物件の買主が太洋でないことは、次のことから明らかである。

(一) 右各物件の譲渡については、それぞれ明確な売買契約書が作成され、亀鶴又は控訴人らと各買受人との間に売買契約書が取り交わされており、亀鶴及び控訴人らも本件所得税の確定申告において、右各買受人に譲渡したものとして申告している。

一方、太洋において買い受けた4ないし6の各物件については、これが商法二六五条の規定に該当するところから、太洋は、あらかじめ取締役会の承認決議をなし、確定決算においてもその購入の事実を計上しており、しかも翌期にはこの資産を転売して多額の利益を得ているが、前記(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件については取締役会において何らの審議もなされておらず、転売の利益も計上されていない。

(二) 太洋は、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の譲渡代金につき仮受金として受け入れており、太洋自身が買い受けたものとしての会計処理をしていないのに対し、太洋自身が買い受けた4ないし6の各物件については、未払金としてはつきり区別して会計処理をしている。

法六四条一項を適用するについては、譲渡代金が回収不能となつていることが必要であるところ、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の譲渡代金についてはそのような事実が存在しない。

すなわち、太洋に売却した4ないし6の各物件の売買代金は実際に支払われないまま控訴人らに対する太洋の未払金として経理処理され、未払のまま太洋について会社更生法に基づく更生計画認可決定がなされたことに伴いその八〇パーセントが切り捨てられることになつたのに対し、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の譲渡代金は、太洋が受領しているとはいうものの、売買契約当事者間ではすべて全額支払済みであつて、後に何らの債権債務も残つていないのであるから、この点において4ないし6の各物件とは実質的に大きな違いがある。また、太洋が受領した右代金は、単に太洋と亀鶴及び控訴人らとの間の問題(貸付金。この貸付金は法三五条に規定する雑所得の基因となる非事業の貸付金(準消費貸借契約)に該当するものとみるべきであり、これが回収不能となつた場合は、同回収不能金額は法五一条四項の規定により雑所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきものである。)にすぎないものというべきである。

4  法一五二条を介して最高裁判決が宣明した所得税の基本原則の主張について

右主張に対する反論は、前記1の(一)(二)記載のとおりであつて、同主張は失当である。

第三証拠

証拠の関係は、原判決事実摘示及び当審訴訟記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

当裁判所は、当審における新たな証拠調の結果を斟酌しても、控訴人らの本訴請求は、原判決が認容した限度において理由があるから正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり付加し訂正するほか、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。

一  原判決の付加、訂正

1  原判決の一四枚目表一行目から二行目にかけての「証人谷口肇(但し、後記採用しない部分を除く。)、同田下徳義、」を「原審及び当審証人谷口肇(但し、後記採用しない部分を除く。)、原審証人田下徳義、」と、同六行目の「右債権に相当する仮受金」を「右債権に相当する仮払金」と、同一〇行目及び同一三行目の各「譲渡代金」を「譲渡代金のうち二億五〇〇〇万円」と、それぞれ改める。

2  原判決十五枚目裏一一行目の「(準消費貸借の成立)、」を「(準消費貸借の成立。なお、控訴人らは、いずれも太洋の取締役であるが、右準消費貸借は無利息、無担保であり、しかも右準消費貸借について太洋が不利益を受ける特段の事情も認められないから、右準消費貸借については商法二六五条による取締役会の承認を受ける必要がない(最高裁判所昭和三八年一二月六日第二小法廷判決・民集一七巻一二号一六六四頁参照)。)、」と、同末行の「納付すべき金額が原告主張の各金額」を「納付すべき税額が被控訴人主張の各金額」とそれぞれ改める。

3  原判決一六枚目表四行目から五行目にかけての「五万八七〇〇円過少である。)ことが認められ、」を「五万八七〇〇円過少である。)であることが認められ、」と、同八行目の「一の更正処分中納付すべき金額」を「一の更正処分中納付すべき税額」とそれぞれ改め、同一六枚目裏四行目から五行目にかけての「訴訟費用の負担につき」の次に「行政事件訴訟法七条、」を加える。

二  控訴人らの主張に対する判断

1  控訴人らの引用する最高裁判決について

控訴人らの引用する最高裁判決は、昭和三七年法律第四四号による改正前の旧所得税法(昭和二二年法律第二七号)のもとにおいて、雑所得として課税の対象とされた金銭債権が後日貸倒れによつて回収不能となつた場合に、その貸倒れの発生と貸倒れ額とが客観的に明白で、課税庁に格別認定判断を留保する合理的必要性がないと認められるときは、国又は課税庁は、正義公平の原則に照らし、納税者に対して課税処分の効力を主張し得ないとしたものであつて、後発的貸倒れに対する救済規定のなかつた前記旧所得税法のもとにおけるものである。ところが、昭和三七年法律第四四号による改正現行所得税法は、一五二条、六四条、国税通則法二三条により後発的貸倒れに対する救済規定を新設し、正義公平の原則に反する結果にならないよう立法的に解決したものである。

そして、本件は、前記(原判決)認定のとおり、

(一)  一の更正処分の分離長期譲渡所得金額は、亀鶴が昭和四九年六月(一)の物件を田上正昭に代金五八四五万円で譲渡したことに関するもの、

(二)  二の更正処分の分離長期譲渡所得金額は、控訴人節二が昭和四九年四月三〇日(二)の物件を大進株式会社に代金二億五三〇〇万円で譲渡したことに関するもの、

(三)  三の更正処分及び四の更正処分の分離長期譲渡所得金額は、控訴人山口ミツ及び控訴人節二が1ないし5の各物件を別表六記載の譲渡年月日欄記載の日に、買受人欄記載の各買受人に、譲渡金額欄記載の各代金でそれぞれ譲渡したことに関するもの、

(四)  五の更正処分の分離長期譲渡所得金額は、控訴人洋三が1ないし6の各物件を別表六の譲渡年月日欄記載

の日に、買受人欄記載の各買受人に、譲渡金額欄記載の各代金でそれぞれ譲渡したことに関するもの、

であるが、右のうち太洋に譲渡した4ないし6の各物件の代金は未払いであつたところ、太洋に対する会社更生法による更生計画認可決定により譲渡代金債権の一部(八〇パーセント)が貸倒れにより回収不能となつた(この点は当事者間に争いがない。)として法六四条一項、一五二条により右貸倒れ部分は所得がなかつたものとして更正請求が認容されていることは、記録上明らかである。これに対し、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の譲渡代金は、前記及び後記認定の諸事実に照らせば、亀鶴又は控訴人らにおいて、太洋を介して受領ずみというべきであつて、貸倒れは存在しないのである。

控訴人らは、亀鶴が太洋の全債務を保証していたので、右保証債務を履行するため、亀鶴及びその相続人である控訴人らは個人資産の殆どを太洋に提供し、その処分方法及び代金の受領等の権限もすべて太洋に委ねていたのであるから、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件も4ないし6の各物件と同様まず太洋が買い受けてこれを太洋が他に転売したものとみるべきであり、したがつて、控訴人らは、太洋に対し(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の売買代金債権を有しており、仮に、右売買代金債権が認められず、控訴人らが太洋を介して前記各買受人から受領した売買代金を太洋に貸し付け(準消費貸借)たものとみるべきであるとしても、右の売買代金債権なり貸付金債権は太洋に対する前記更生計画認可決定により貸倒れとなつたのであつて、控訴人らは、いずれにしても結果的に所得なきところに課税されたことになるので、本件には最高裁判決が適用されるべきである旨主張する。しかしながら、前記(原判決)認定の事実と、その掲記の各証拠によると、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件については、亀鶴及び控訴人らと太洋以外の前記各買受人との間で売買契約書が作成され、他方、4ないし6の各物件については、控訴人らと太洋との間で売買契約書が作成されて、売買契約書上も異なつた取扱いがなされ、かつ、前者については亀鶴及び控訴人らから各買受人に直接所有権移転登記が経由されていること、亀鶴及び控訴人らは、太洋の取締役であり、太洋との取引(売買)については商法二六五条により取締役会の承認が必要であるところ、4ないし6の各物件については右手続がなされているのに対し、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件については右手続がなされておらず、手続上においても区別した取扱いがなされていること、太洋は、4ないし6の各物件について、確定決算において購入の事実を計上し、翌期には右物件を転売して多額の利益をあげていること、太洋は、4ないし6の各物件の買受代金は未払金として計上しているのに対し、(一)の物件の譲渡代金のうち五八〇〇万円を亀鶴の太洋に対する仮払金の戻入れとし、(二)の物件及び1ないし3の各物件の譲渡代金のうち仲介手数料等を差し引いた残金を仮受金としてそれぞれ処理し、右両者の取扱いに差異があること、控訴人らは、太洋に対する会社更生法による会社更生手続において、太洋の右未払金及び仮受金に対応する債権等を更生債権として届出をし、更生債権認否表において無異議議決権額の一般更生債権として承認されていることなどに鑑みると、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の買受人が太洋であるとは到底認められない。また、控訴人らは、前記(原判決)認定のように、(二)の物件及び1ないし3の各物件の譲渡代金のうち仲介手数料等を差し引いた残金を太洋に貸し付けている(仮受金、準消費貸借契約の成立)が、右貸付けは、控訴人らが本件課税の対象となつた(二)の物件及び1ないし3の各物件の譲渡代金を各買受人から太洋を介して一旦受領した後における新たな事後処分であつて、この貸付金が前記更生計画認可決定により貸倒れとなつて回収不能となつたとしても、これは右課税の対象とされた譲渡代金債権とは名実ともに無関係というべきであるから、最高裁判決のいう結果的に所得なきところに課税したということにならないことはいうまでもない。なお、右認定のような太洋の経理上の処理が、亀鶴ないし控訴人らの意思と無関係に、単なる便宜上のものとして行われたと認めるべき証拠はない。

したがつて、本件に最高裁判決が適用されるべきであるとの控訴人らの主張は理由がない。

2  法六四条二項の主張について

控訴人らは、亀鶴は火災によつて生じた太洋の被災者らに対する補償金支払債務を含む太洋の全債務につき個人保証をしていたので、亀鶴及びその相続人である控訴人らは右保証債務を履行するため、個人資産である(一)(二)の各物件及び1ないし6の各物件等を太洋に提供し、これらの処分方法及び代金の受領等の権限もすべて太洋に委ねて保証債務を履行した旨主張する。

しかしながら、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の譲渡代金が太洋の債務につき亀鶴が保証した保証債務の履行に供されたものでないことは前記(原判決)認定のとおりであるばかりでなく、亀鶴が控訴人ら主張のように太洋の全債務について保証したことを認めるに足りる証拠も十分ではない。確かに、亀鶴が太洋の取引銀行等に対する多くの債務につき保証していることは否定することはできない。そして、証人谷口肇は、原審及び当審における証人尋問において、亀鶴が火災によつて生じた太洋の被災者らに対する補償金支払債務を個人保証した旨供述し、当審証人谷口肇の証言により成立を認める甲第二三号証の一には右供述を裏付けるような記載があるが、右甲第二三号証の一(作成日は昭和五七年五月一四日)に記載された昭和五四年三月二七日付覚書は証拠として提出されていないこと並びに成立に争いのない乙第三二号証の記載に照らすと、前記供述及び甲第二三号証の一の記載のみから直ちに亀鶴が火災によつて生じた太洋の被災者らに対する補償金支払債務を保証したものとは認めるに足りない(亀鶴ないし控訴人らによる右補償金の支払約束及び支払の履行は、太洋の取締役としての同人らの固有の責務としてなされたものと推認される。)。また、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件の譲渡代金が太洋の債務について亀鶴が保証したどの保証債務の履行に供されたものかを具体的に確定するに足りる証拠はなく、控訴人らの引用する嘆願書(成立に争いのない甲第一九ないし第二一号証)によつてもこれを認めることができない(なお、当審証人谷口肇は、控訴人らの太洋に対する保証債務の履行状況について、会社更生法による更生計画認可決定の前後を通じて全く同じであり、このことを成立に争いのない甲第五一号証に記載したものである旨供述するが、右は成立に争いのない甲第二四号証、乙第六三号証(原本の存在も争いがない。)の各記載に照らしてにわかに措信できず、右証言はこの点からしても採用することができない。)。

したがつて、控訴人らの法六四条二項を適用ないし準用すべきであるとの主張は理由がない。

3  法六四条一項の主張について

控訴人らは、(一)(二)の各物件及び1ないし3の各物件は、亀鶴及び控訴人らが太洋に時価で売り渡したものとみるべきである旨主張するが、右各物件の各買主が太洋と認めることができないことは前記のとおりであり、また右各物件の譲渡代金が回収不能となつたものでないことも前記認定のとおりである。

したがつて、控訴人らの法六四条一項を適用ないし準用すべきであるとの主張はその前提を欠き、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

よつて、原判決は相当であつて、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、なお原判決主文一項に明白な誤謬があるので民事訴訟法一九四条により本判決主文一項但書のとおり更正し、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 友納治夫 裁判官 山口茂一 裁判官 榎下義康)

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